いきなり、玄関に日本刀を持った男が現れました。
自分の記憶だと鞘から抜いた真剣を片手に持っていました。
その頃、おやじは、アマチュア無線をやっていて、庭には、大きなアンテナが二本立っていて、家の中の一角はアマチュア無線の機材で一杯でした。
その男は、
「お前の家のアンテナの電波が頭に響いて眠れない」
とかなんとか、訳の分からないことを言って、家に上がろうとしました。
後で分かったのですが、精神異常者でした。
それを見ていた親父は、何も言わずに、奥に引っ込むと木刀を持って出てきて、
その男の前で上段に構えました。
おやじは終始無言で、黙って男を睨んでいましたが、
おそらく、そこから一歩でも近づいたら、その男の頭蓋骨は真っ二つになっていたと思います。
精神異常者って、ある意味、「気」に敏感ですから。その男は自分の生命の危機を感じたのだと思います。
そのまま後ずさりをして帰ってしまいました。
今だったら、それから警察に連絡したりして大騒動になり、下手すりゃワイドショーネタになりそうな事件ですが、
男が帰った後も、おやじも、おふくろも、何事もなかったかのように、またいつもの生活に戻ったことを覚えています。
あとで、母から聞いたのですが、
当時は昭和34年くらい。まだ、戦争の後のどさくさがあって、相当物騒な時代で、
家の周りでも、夜になると、よく拳銃の音がしていたそうです。
殺人事件や喧嘩も日常茶飯事で、日本刀男なんて、そんな珍しい出来事でもなかったそうです。
おやじは職業軍人上がりで、同僚はほとんど戦死、
戦死するはずだったのに生き残ったので、もう怖いものはなかったようです。
おやじは柔道、剣道、銃剣道、なんでもこなす命知らずでした。
それを見た自分は、おやじに
「剣道を習いたい」
と言ったら。
「柔道にしろ、剣道やっていても素手で相手は倒せないぞ」。
と言われ、柔道場に通わされました。
あとでおふくろに聞いたのですが、剣道は防具にとてもお金がかかるので、柔道をやらせたみたいでした。笑。
もうおやじが他界して10年以上になります。
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